#008 コミュニティミュージックについて
■コミュニティミュージックとは?
1. 普及活動
「この考え方はまだ一般に定着していない」とは、『Community Music In Theory and In Practice(コミュニティミュージック:理論と実践)』(リー・ヒギンス著、2012年)の冒頭に書かれていることです。また、リード文に示した3つの定義もそこに書かれています。
大きくはイギリスで開化したこの考え方やその実践は、それでも日本にもやって来ていて、両国門天ホール(東京、墨田区)の発表からは、一般社団法人もんてんが主催する講座シリーズ「コミュニティ・ミュージックのいま、そしてこれから」(2021年から2024年)(注1)で、計13回の講座、ミニコンサート、シンポジウムの開催が確認できます。
海外でコミュニティミュージック(以後、CMとします)の知見を得た先駆者の塩原麻里先生(元国立音楽大学教授)、井上勢津先生(ノルウェー政府認定音楽療法士・東京音楽大学講師)、沼田里衣(大阪公立大学大学院文学研究科 文化構想学専攻 准教授)などが講師として参加されていたことが確認できます。
このシリーズ講座の説明として、
アーティストと市民が共同でアートを創造するイベントが日本中で行われるようになり、市民権を得てきています。にもかかわらず、こうした活動について、これまで日本ではあまりまとめられてきませんでした。これらの活動は、音楽の分野では、「コミュニティ・ミュージック」という言葉で語られることもありますが、その言葉の定義は難しく、日本においての共通認識はできていません。今後、日本でもコミュニティ・ミュージック事業は広がりを見せていくことが予想される現在、コミュニティ・ミュージックとはどのようなもので、どんな成果が期待されるのか、世界の動向から日本の現状に至るまでを整理し、今後の活動のあり方について考えていこうとするのが本企画の趣旨です。
とあります。
このように、日本でのコミュニティーミュージックの考え方の拡がりや実践は、未だ「発展途上」といったところのようです。
2. 実践例
上記の講座シリーズでは、前期に座学の講座、後期には実践編として即興音楽集団「即興からめーる団」などがワークショップを実施したり、実践例を紹介したりしています。実際の体験を経ることで、参加者たちがこうした考え方や方法を伝えることになるだろうと思います。
また、国立音楽大学でも「国立音楽大学コミュニティ・ミュージック・センター(KCMC)」が2016年に設立され、地域音楽活動支援、学校教育支援、教育普及、専門人材養成、地域交流促進の各事業を行っているようですが、その具体的な姿は、演奏者の派遣、学生ボランティアによる地域音楽活動、地域の自治体及び各団体主催の音楽鑑賞教室、各種オープンカレッジ活動などとありますから、かなり「教育的」側面が前面にあるようです。また、プロ音楽家や音楽学生がリーダーとなり、地域(コミュニティ)の音楽活動を「支援」するといった意識が根底にあるように考えられます。コミュニティミュージックの世界では、コミュニティミュージシャンという、音楽上のリーダー役も想定されているので、こうした取り組みも一つの方法であると思います。
NPO法人オリーブの園(大阪府)が開催する「音楽療法室野の花」では、CMを「コミュニティ音楽」といい、
人が集団(コミュニティ)に影響を与え、「参加者で音楽を”共創”することによってより言葉を超えたコミュニケーションでコミュニティの結束を強くします。
と述べ、その活動範囲を、1. 地域、2. 企業、3. 学校、4. 病院と想定してるようです。
基本には音楽療法的考え方があり、「孤立孤独が問題視される昨今において音楽によって人を繋げることが私たちの使命」とも謳っています。コミュニティミュージックのもう一つの側面である、音楽療法との親和性からすれば、これも一つの考え方だと思います。ここでは、ハンディキャップをお持ちの方、高齢者、何らかの原因で「病気」との診断を受けた方々の精神的支えとして音楽を機能させる、音楽により困難な状況を緩和する、音楽によりそうした人々をエンパワーするという役割がありそうです。
■移民社会としての日本でのCM
1. 背景
筆者が関わった「東京音楽大学 文化庁補助事業 アートマネジメント人材育成」(注3)は、文化庁の「大学における文化芸術推進事業」(主幹:東京音楽大学福田裕美先生、2019〜2024年度)の一貫として行われました。そこでは、日本の伝統芸能や世界の伝統芸能を視野に入れて調査・研究を行い、「伝統音楽・芸能を今日の社会につなげ、且つフィールドにおける伝承を未来につなげること」ができる人材育成のためのプログラムを実施しました。
特に第2期(Season2)の3年間の活動では、筆者が担当したグループが、東京都江戸川区のインド・ルーツの居住者と日本社会の「共生」を図る活動を行いました。インドの音楽、日本の音楽、西洋の音楽や楽器を「利用」しながら、インド・ルーツの居住者と日本の人々が交流する場を作ったのです。地域での課題を探る中、日本語学習で見落とされがちな、オノマトペ(いろいろな音・声、物の動きや様子、人や動物の動きや様子、人の感覚や気持ちをあらわす擬音語や擬態語)(注4)の理解が、外国ルーツの人々にはややむずかしいということを発見しました。日本語を母語とする人からは、特に教科書で学ばなくともある程度自然に使うことが可能になり、日常会話のなかでもよく利用する日本語の要素です。ところが、外国ルーツの人々が日本語を学ぶ教科書などでは、日本語オノマトペは積極的に教材化されていないのです。地域で日本語ボランティアを行っていらっしゃるグループや先生方との情報を共有しながら、さまざまなオノマトペで表現される音や様子を音楽で表現するセッションや、ディスカッションを重ねました。
2024年度には、「インドタウンのコミュニティミュージック2024」というプログラムの中で、最後にはファシリテーターとともにワークショップを行い、日本語オノマトペを活用した音楽ゲーム、水を表すオノマトペを中心とした音楽づくりのセッションを行いました。

「インドタウンのコミュニティミュージック2024」(2024年12月7日(日)江戸川区)
2. 実践
「音楽はコミュニティ同志をつなぐ」との考え方から、筆者は現在、インド、中国・ブラジルにルーツを持ちながら日本に居住する人々を主な対象として、それぞれの音楽文化に特徴的な楽器や音を利用しながら、ひとつの音楽づくりに参加するイベントを計画しています。その中心には、相互理解、共通語としての日本語の理解促進、異なるコミュニティメンバーの出会いの場の創出という目的があります。
基本的には、音楽は顔をつきあわせながら音をやりとりするコミュニケーションです。音での対話を行うには、「哲学対話」の方法も役に立つと思います。対話的セッションの促進のために、1.何を言ってもいい。2.人の言うことに対して否定的な態度をとらない。3.発言せず、ただ聞いているだけでもいい。4.お互いに問いかけるようにする。5.知識ではなく、自分の経験にそくして話す。6.話がまとまらなくてもいい。7.意見が変わってもいい。8.分からなくなってもいい、という8つの原則を作った人がいます(注5)。
これをコミュニティミュージックでの音楽対話に応用するとすれば、1. どのような音を出してもいい。2. 人の出す音に対して否定的な態度をとらない。3. 音をださず、ただ聞いているだけでもいい。4. お互いに音で問いかけるようにする。5. 知識ではなく、自分の経験にそくして音を出す。6. 音楽がまとまらくてもいい。7. 出したい音が変わってもいい。8. どのような音を出すかわからなくなってもいい、という原則を作ってもよいかと思います。作曲家が作った「正しい」音楽をみんなで演奏するのも楽しいですが、参加者がお互いの音楽表現に耳を傾け、そのなかで音の対話を楽しむ方法をとれば、背景が異なる人々の間のコミュニケーションが実現できると思います。
以下の「お知らせ」で示したイベントを計画しています。ご興味ある方は是非、ご参加いただければ幸いです。
お知らせ
対話的コミュニティミュージックのワークショップを以下のように開催します。異なる文化をお持ちの方々とともに行う音楽づくりにご興味のある方は、是非ご参加いただければと思います。音楽経験は必要ありありません。どなたも参加できます。
みんなで音楽を作ろう!—中国・インド・ブラジルの楽器による音楽コミュニケーション」—
○音楽経験必要なしで 大人もこどもも参加できます!
・No musical experience required. Adults and children are welcome to participate!
・不需要音乐经验。大人和孩子都可以参加!
・Não é necessário ter experiência musical. Adultos e crianças podem participar!
日時:2026年9月13日(日)15:00-16:30
場所:JICA横浜 セミナールーム6/7
231-0001 横浜市中区新港2-3-1(最寄り駅:馬車道駅(みなとみらい線)4番万国橋出口から:ワールドポーターズ方向に徒歩8分)
DAY & TIME: Sunday, September 13, 2026 3:00 PM–4:30 PM (opens at 2:30 PM)
Venue: JICA Yokohama, Seminar Room 6/7, 231-0001, 2-3-1 Shinko, Naka-ku, Yokohama (Nearest station: Bashamichi Station (Minatomirai Line), Exit 4 Bankokubashi), 8-minute walk toward Yokohama World Porters
参加費:無料 (Admission: Free)
注1 【総合ページ】コミュニティ・ミュージックのいま、そしてこれから2024 前期 On Line. https://www.monten.jp/cm2024 (ここから過去のイベント情報を確認できます)
注2 NPO法人オリーブの園. https://www.ori-bu.net/lp
注3 東京音楽大学. 東京音楽大学 文化庁補助事業 アートマネジメント人材育成. https://www.tokyo-ondai.ac.jp/art_management/
注4 国立国語研究所. 日本語を楽しもう! —擬音語って? 擬態語って?—カテゴリー別. https://www2.ninjal.ac.jp/Onomatope/category.html
注5 インクルーシヴな場を生み出す哲学対話とは何か:ダイバーシティ&インクルージョン研究 05 FEATURES. UTokyo FOCUS. https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/diversityresearch05.html
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