留日・潤日と音楽
日本留学で学ぶ音楽
昨年(2025年)の夏、ある新聞社が主催したオンラインイベントに参加しました。音楽ではなく、仕事や学びのために日本を目指す中国の人々(留日・潤日)についてのものでした(注1)。それに先立つ2025年2月には、『潤日(ルンリー) 日本へ大脱出する中国人富裕層を追う』も読んだばかりでした。NHKの番組「NHKスペシャル 潤日の肖像 日本に向かう“中国”」(2026年5月24日放送)でも、この現象を取り上げています。いずれも、日本をめざす中国の方々が多くなったという内容でした。
筆者が関わっている日本の大学での音楽の学びの場でも、ここ数年、中国留学生に接することが多くなっています(この場合は留日)。もちろん、音楽以外の分野では、さらに顕著な状況だと推察しています(注2)。実際、どの音楽系コースを持つ大学の教員と話しても、彼らの増加は注目されていて、また彼らの高い学習意欲が話題になっていました。
実際、私自身も2020年度より、大学院でこうした留学生を多く指導するようになり、「まじめだなあ」、「がんばっているな」と実感しているのです。昔にインドへ留学して、英語、ヒンディー語、ベンガル語、ウルドゥー語などが入り交じる社会に住みながら、大学院で学んだことを思い返すと、厚い言語と文化の壁を超えての学びはたいへんだと思います。彼ら/彼女らのすばらしい努力を賞賛したくなります。現在は、インターネットがあるので、情報は豊富に得られる点は大きく違いますが… 当時の私は、郵便も届くかどうか不安だったり、FAXもとても珍しかったことを思い出します(老人の昔話しになってしまい、もうしわけありません)。
日本で聴かれる中国音楽
1994年に発刊された増山賢治著『中国音楽の現在 : 伝統音楽から流行音楽まで』(東京:東京書籍)は、当時の中国での伝統音楽や中国ポップス、はては地方のさまざまな音楽について網羅していて中国音楽のイメージを持つのにたいへんよい本でした。でも、2020年頃から接することになった中国留学生から学ぶ現代中国での伝統音楽のことを知るにつけ、自らの無知を恥じることになったのです。90年代のイメージがまったくアップデートできていませんでした。現代の作曲家たちが、西洋音楽の要素も大きく取り入れた新しい作品をたくさん創作しているのです。大きく変化した中国社会の中で起きた音楽の変化を目の当たりにして、留学生から得たことが多く、音楽文化の歴史を考えるのに役にたちました。
日本で大学院を修了して巣立つ現代の中国音楽演奏者たちもさまざまです。故郷に帰り、留学の経験を活かして教育活動や演奏活動を展開する人がいれば、また日本に残ってさまざまな活躍の場を広げる人がいます。また日本人も、日本で活動する中国人演奏家たちから音楽を学ぶことも増えています。有名な伝統楽器としては二胡(他にも高胡などのバリエーションあり)は、とりわけ日本でも好まれていて、東京、名古屋、大阪などに多くの教室が存在します。日本の箏(コト)と同系の古筝という楽器も、学べる教室が存在するようになりました。5月にも、ある二胡演奏者が率いる日本人楽団による二胡演奏発表会を聞きました。また、6月には古筝と二胡の奏者による演奏会もあります。8月には、日本での活動が30年を迎え、日本人京劇俳優も参加する京劇団の記念公演会も控えています。
巷で身近になってきた本場の「ガチ中華」と同様に、質の高い「ガチ中国音楽」に触れられる環境があります。本ニューズレターの姉妹版ポッドキャスト「こびん's world Musicキャスト」#01-003のイベント紹介でも中国音楽イベント(6/28開催)を紹介しています。
注1:朝日新聞記者サロン「留日・潤日 中国の人々はなぜ日本をめざすのか」(2025年8月29日)。これに先立ち、連載記事「留日 中国から 日本へ渡る生徒たち」(朝日新聞、2025年5月19日、20日)は、「留日」現象の中で、留学生の低年齢化に触れています。2025年11月7日の高市首相の衆院予算委での台湾に関する「存立危機事態」を起点とする日中関係の険悪化以後の来日中国人観光客の減少、中国政府による日本留学に対する非推奨の影響がどの程度なのかは、2026年度の状況を観察する必要があります。
注2:日本学生支援機構(JASSO)の統計(2025年度版)によれば、出身国別留学生数で、中国(台湾除く)からは約13万人です。1983年の外国人留学生の総数が約1万人だったことと比較すると、その増加には目を見張るものがあります。専攻分野別の「芸術」は約1.7万人で、留学生全体の4.2%(2024年5月1日現在)です。
■最後までお読みいただき、ありがとうございます。今回は動画もなく申し訳ありません。
サムネイル画像は、6月28日に開催される音楽会「東方弦響」のチラシの一部を使わせていただきました。
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